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夢奇譚第37部・・・コロナパンデミック・自粛の巻き。

               夢奇譚第37部・・・コロナパンデミック・自粛の巻。
 <その1>
 今年も早や師走を迎える時候と成った。娑婆では武漢ウィルスの世界的第3波、米大統領選の不正投票疑惑と連日のニュースとネット状況で在る。ウィルスの人感染でマスクに三密を避ける行動が定着して、飲食業、催事業、旅行業、宿泊業は死活問題の経済失速を余儀無くされて居る2020年で在る。
 然しながら、お役御免の閉じ籠りの古希坂独居親父の私には、その影響は殆ど無い『マンネリ日常』を送って居る次第で在る。例年の事ながら、長く寒い信州の冬の到来で在る。庭木の枝下ろし、吊るし柿も完成して、缶、箱詰めにして、大根干しも終了して、糠床の低温熟成の眠りに就く師走のスタートで在る。

      そんな或る午後、携帯が光を発して、ルルと鳴って居る。
「モォ~シ、モ~ォシ、暇してる~でしょう。元気にしてる~?」
 主は美形では在るが、グリム童話に登場する、鷲鼻の老魔法使いの皺枯れ声で在る。

「ああ、暇と云えば暇、普通にして居るって云えば、普段通りでマイペース、マイタイムしてるよ。周りからは、一応元気にしてるって見えてるらしいよ。如何だい、異界の方は?」

「コロナ流行りで、高齢者の新入りが殺到してるけど、私は教官の指導者でしょう。筋の好いのが回って来るまでは時間が掛かるから、結構暇なのよ。現界じぁ旅行も規制されて居るから、如何? 行きたい所が在ったら、付き合うわよ。」

「それなら在るけどさ。一度、世界の遊牧民の生活を見て来たいと思ってるんだけどさ。」
「ふ~ん、相変わらず、変な処に興味が在るのね。アナタらしいわね。私は異界の魔法使いだから、リクエストは自由よ。近日中に行くわよ。計画して置きなさい。」
「了解。分かった。」

 遊牧民族の歴史は農耕、漁労と同じく、その風土に合った形態を呈して現在に至って居る。砂漠ではラクダ、乾燥地帯では羊、草原地帯では馬、牛、寒冷地タイではトナカイと太古の昔より自然界と人間界は、共に歩んで来た歴史が在る。

 駄役としての牛馬、乳製品、専らの動物蛋白質接種の家畜としての鶏・豚は農業の発展期に、駄役・食用・衣料繊維・糞尿肥料転化で『有畜農業』として確立された農法で在る。

 世界史に於ける遊牧民の馬、ラクダを駆使した機動戦法は、印欧語族、史上初の騎馬民族スキタイに端を発して、中央アジアから沸き起こる農耕民族に対する騎馬民族の圧倒的軍事力で、イスラム、モンゴル帝国と中世世界を震撼とさせた歴史を持って居る。
 そんな歴史鳥観図に立つと、弓と剣、人馬・ラクダ一体の肉弾戦は、人間主体の雄々しさを感じさせる魅力溢れる時代で在る。平時の遊牧生活の基本は、草を求めての家族単位の移動生活で在る。彼等にとっては家畜の数が財産の基本で在り、その財産を増やし賄う物は草で在る。

 現代はITの進んだ時代で在る。家にはPCが手元にはスマートホンが有り、人は検索するだけで希望の知識、映像を瞬時にして観る事が出来る。コンパクトPCのスマートホンの普及は、謂わば現代の個人的羅針盤で在るから、個人旅・家族・小グループ旅の最大最強のツールと為って居る。

 アラブの荒涼たる砂漠の中で曲がった木のフレームとしてパピルスを編み込んだ筵で周囲を囲んだ粗末な家(テント)を作り、砂漠を移動して行く生活を営む。半砂漠、草原では、地勢に応じて羊、馬を放牧移動させ、南北アメリカ大陸では、大々的な牛の放牧をする牧童カウボーイの生活が在り、ユーラシアのツンドラ地帯ではトナカイの年中橇を用いる遊牧移動生活が営まれて居る。移動家屋の基本形は組み立て、解体が便利なテント形式で在り、その支柱に供される物は真直ぐな木材で在り、天幕は家畜の皮革が用いられて居る。

 <その2>
 異界の女・ナターシャから願っても無い異次元界行のお誘いを頂戴した次第では在るが、考えると、恒例の夢奇譚も一年滞って居た次第で在る。娑婆では忘年会シーズンで在る。世界的なウィルス禍で行動規制・自粛で、何かと縮んだ日常で在る。
 諸々を考えると、ナターシャとの隠密観察行よりも、夢奇譚メンバーでの忘年会をした方が好いと思われる。振り返れば、何やかやとロシアン・アマゾネスの面々には、お世話に為った来た夢奇譚の数々で在る。

 幸い、前回湯治行の『隠し湯」も在る次第で在る。春のテント会も一度遣った事でも在るし、季節は冬では在るが、参加者はロシア女達で在るし、女族の皮下脂肪も備わって居る。従って寒さには、私以上の耐性も備えて居る連中で在る。決して、嫌とは云うまい。

 露天の川風呂の周囲に個別テントを設営すれば、湯冷めもしないで熟睡も出来る。北国の家とは別に郊外の別荘での果樹、野菜を作っての『冬越し文化』を持つ自然派連中で在る。広葉樹林の中の小屋はベースキャンプとして使えば、それなりの散策も出来るし、薪拾いの運動も出来る。何事も物は考え様で、ショート泊の同級会の形にも為ろう。

           数日して、ナターシャから異界電話が来た。
「如何、計画は出来た? 内容を説明して下さ~い。」

 本人としては、甘え声をして居る心算なのだろうが、白人女性はトーンが低い。声だけ聞いて居ると、矢張りライオン鼻の魔法使いの声で在る。

「行きたい所は在ったんだけどさ。計画変更でチャイナコロナ禍で、皆、縮こまった日々だろうからさ。今年は自粛流行で、中学の同級会も無しに為った訳よ。それでさ、テント付き温泉の『夢奇譚同級会』をしようと思ってさ。
 俺の手料理で天然温泉風呂に浸かっての飲み食い同級会遣ってさ、色エロ在った夢奇譚の思い出話に花を咲かせて、年送りをしようって寸法なんだけどね。如何するよ。」

「おぅ、それグッド・アイディアですね。貴方のクッキングは美味しい。思い出話は一杯在る~。ロシアからは、何が欲しいですか。ヤナとバルディナに言って、持って行きます。」

「そうかい、有難いね。チーズと例の大きなソ―セージを頼むよ。そうだ、スーパーにはウォッカが無いから、飲みたかったら持って来てよ。後は、俺が用意するから。それに今年は寒いし、山投宿だから冬支度で来て呉れよ。」

「OK、あなた、寒いでしょうから、ロシアのトナカイの帽子持って行って上げる~。そしたら、私達、明日行きます。何時が好いですか。」

「そうだな。じぁ、10時に来てくれ。一緒に食料の買い出して、運び込みは、ナターシャの魔法でと云う事にしよう。」

 翌朝は買い物が済んだら、即出発出来る様に、鍋類、薬缶、包丁、まな板、手鋸、鉈、マサカリなどを廊下に用意をする。子供が小さい頃に、夏休みのテントに行くのと同様の用意で在る。
 用意さえして置けば、魔法による瞬間移動と為るから、持つべきは異界の魔法使いナターシャ様で在る。就寝前の寝床の中で、彼是と明日の事を考えるのは、童心に帰って、気持ちが『高揚』して嬉しい物で在る。

 翌朝は通常通りに朝告げ鳥の声で起床して、小部屋入りしてモーニングコーヒーの一服を付けながら、用意して置く物の段取りとする。さて、身体も朝の寒さに慣れて来た。行動開始とする。

 ウイスキー、日本酒は買うとして、貰い物の缶ビール、アマゾネス連に好評の手造り梅酒も出して置く事に致そう。何しろ、ロシア人は吞ん兵衛連で在るから、虎の子のアサリ、貝紐、イカ耳フレークの佃煮、特辛炒め味噌のタッパを出して置くと致そう。しゃ~無い。吊るし柿も一箱持って行くとしよう。

 ケチケチして居ると、読心術に長けた異界の女で在るから、勝手に冷蔵庫を開けられて持って行かれるだけの事で在る。

    庭に声がして、ドヤドヤと冬支度のロシアン・アマゾネス様御一行の到着で在る。

「あれ、如何した。定刻5分前じゃ無いか。」
「おう、当然でしょ。私達、あなたの弟子でしょ。5分前は、あなたのエチケットです。」
「ダーリン、久し振~り。全然、歳取って無いですね。若くて元気。安心しました。」
「ナターシャに聞きました。天然温泉付き同級会。楽しみです。あなたの好きな大振りのソーセージ、沢山持って来ました。」

 相手がスキンシップのロシアンアマゾネス達で在るから、ハグとキス、スキンヘッドを撫でられたり、ペチャペチャ叩かれたりの再会シーンで在る。

「これ、私たちのプレゼント。トナカイの帽子。被って。おう、男前だから好く似合う~。」チュチュ。


 寒くなったとは云え、冬の初めの日中で在るから、着膨れには早過ぎる。上を脱いで先ずは、コーヒーを飲んでのアマゾネス達との交歓話とする。相変わらず甲乙付け難い美人美形さん揃いで在る。
 歳を取ると、流石に白人女の豊満な臀部には圧倒されるばかりで在る。位置の高さ、腹部・尻の膨らみには、尻込みを催す次第で在る。その癖、手は白くて細い華奢な作りで小顔の白い肌にはシミ一つ無い、目鼻立ちが通った彫りの深さと、ブルーアイで在る。口紅を差さない薄い唇は、白人特有の淡いピンク色で在る。

「さぁ、事は急げです。食材調達に行きましょう。今回は現地調達じゃ無いから、楽で好いから、美味しい物一杯買いましょう。オホホ。」

 ポンコツ軽に4人が乗って、パンクしないかの心配で在る。女族3人の熱気に『老いぼれ車』も弾んで居る。ヒーター無しでも暑い位の女暖房車で在る。アハハのハ!!

「好きな物を入れて呉れ。温泉旅館の宴会と比べたら、DIYの食材費だけで済むんだから、遠慮は要らんぜ。買い過ぎて、残ったら、責任を取って、同級会が延長されるだけの事よ。」

「流石、ダーリンはクレバーで、グット・ユーモア。ナターシャの魔法で、家を何日空けても、全然問題無いですからね。クッキングの腕前は、凄く美味しいから、便乗、悪乗りさせて貰いましょう。」
「財布は、大丈夫ですか。」

「大丈夫だよ。日本の貧乏人でも、美人、美形さん達を『飢え死』にさせんから、安心しな。」

 大手スーパーに行って、大量買いをして帰って来る。魔法の瞬間移動も重量オーバーで、三回の移動との事で在る。運び物を庭に出して、戸締りをして、庭に冬支度の勢揃いで在る。

「先ずは人間移動から行きま~す。さぁ、並んで手を繋いで。場所を行って下さい。」
「テント張りだから、先ずは川湯の所へ。」
「了解。テント持って、手を繋いで、目を瞑って。さぁ、行くわよ。」

              目を開ければ、ワァ~オの川湯到着で在る。

 川湯に近い平らな地面を均して、テントを2つセットして居ると、次の便、次の便が現れた。テント用品と料理、煮炊き用品、食料を分散させて、ベース小屋への移動をナターシャに頼む。

 落葉広葉樹林の中、小屋には、狼達が控えて居た。夢奇譚界ではお馴染みの関係で在るから、ロシアンアマゾネス達への狼達の体当たり、覆い被さりの荒々しいスキンシップの交流が始まった。

 そんな狼達との交流が一段落して、私達は連れ立って林の中から、燃料の薪集め、一輪車を押しての水汲みに分かれる。一応、ロシア社会ではレディファーストらしいから、男の私は、女連の小間使い役を仰せつかっての薪、水運びの一輪車押しに徹する。ボス狼が私に付いて来て呉れた。

 夢奇譚の中では、肉体、声を持たない異界の女ナターシャも、此処では姿形声を持った存在で在る。人間が4人も居れば、其々に性格も違うし、得手不得手も在る者同士で在る。一番付き合いの長いナターシャは、仕事嫌いなお節介焼きで、ヤナはスポーツウーマン系の自立活動派で、バルディナはおっとりタイプの家庭派で在る。

 力仕事、危険な場面はヤナと組み、料理はバルディナと組み、全体のアドバイスはナターシャがすると云うのが、私達の自然な形で出来上がったパターンと為って居る。

「さぁさぁ、大体の物は揃って来ましたね。さぁ、あなたの腕の見せ所です。私とヤナは疲れました。二人とも、クッキングは苦手。」
「そうそう、居ても煩いだけで、役に立たないでしょ。バルディナを置いて、私達二人は探検派だから、狼達の案内で林の中を見て来ます。好いでしょう。」

「ああ、好いよ。料理、火の番をしながら、木を切ったり、割ったりしてるから大丈夫だ。下で風呂に入ったり、下でも火も焚ける様に薪を集めて置いて呉れたら、有難いけどな。」
「OK、任せなさい。」

 ナターシャとヤナは、夢奇譚行の七つ道具をショルダーに、腰には鞭を装備して、狼の案内で冬枯れの広葉樹の林の中に入って行った。

         すると、直ぐに福与かな臀部を、私にプリプリとスウィングして。
「これで二人きりのクッキングタイムを楽しみましょう。さぁ、私は何を手伝いましょう。」
「じぁ、先ずは、時間の掛かる大鍋の煮込みの仕込みから始めようか。」

 和風鍋用の大根、サトイモ、ゴボウ、ニンジンの皮剥きを始める。師走の無風のお天道さんの日差しは暖かく、上を脱いでのクッキングスタートで在る。

「寿司、天ぷら、すき焼きだけが日本料理じゃ無いから、田舎の家庭料理の方が、美味いもんさな。或る時聞いた話だけど、人類最古の焼成土器の縄文土器は、煮炊き用に発明されたそうだ。じっくり色んな具材を煮込むのが日本料理の特色の片方なんだってさ。
 単品、旬の素材の風味、味を愉しむのも、日本料理の形だけど、ごった煮食文化も日本の味さね。云って見れば料亭、レストランの高級料理に対して、大衆食堂のお袋の味も、好いもんだぜ。」

「おぅ、相変わらず、説明が上手ですね。私達の先生で、ダーリンは物知りで本当に奥が深いですね。これ、大根でしたね。大きな立派な大根が、何本も在りますね。ロシアの野菜は余り改良されて居ないから、日本の野菜・果物はみんな大きくて、味も好いですからね。楽しみですね。」

「そうだろう。ロシアは共産主義の国だったから、日本の様に好い物を作らないと売れないの『努力の積み重ね』が無かったから、それもお国柄の一つだろうさ。
 冬野菜の代表格で、大根、白菜、長ネギは、色んな物に使えて、安くて重宝な物でね。お前さん達は呑兵衛揃いだから、大根を短冊にスライスして、ツナ缶にトマトケチャプ&マヨネーズ和えにすると、シャキシャキして好い酒の肴のサラダに為るし、下ろし納豆に蕎麦、餅なんて食べ方も有る。
 処でネットのロシア女性ユーチューバーの動画を見て居ると、ロシア女性は納豆好きな人が多いって、吃驚したよ。」

「そうです。それで買い物にも一杯、納豆を籠に入れときました。ロシアでも日本食がブームで、健康食品のイメージで、味噌、醤油なんかの『日本の発酵食品』が注目されて居て、その中に納豆も上位に在りますからね。
 私達は肉食・乳製品系で、中年に成ると肉が纏わり付いて来て、デブデブして来ます。ダーリンは太って居ないから、矢張り日本食の御利益なんでしょ。私達にとっては、驚異の見本ですよ。
 あの二人は、クッキング嫌い。でも私はクッキング大好きだから、こうしてマンツーマンでクッキング教わる事出来ます。私の日本食レシピも多く成ります。これ、一石二鳥でしょ。次は何アシストします?」

「サンキュー、次は狼達も喜ぶカレーの仕込みをしようか。ジャガイモ、タマネギ、ニンジンを遣って呉れよ。野菜類は大量に頼むよ。」

 優秀な女手が在るから、私は集められた枯れ木を手鋸で切り分けたり、手斧、鉈を使いながらの薪作りに移行する。

「は~い、終わりました。次は如何しますか?」
「はい、ご苦労さん。レストランカレーじぁ無くて、『お袋カレー』にするから、大きめにブツ切りにして貰おうか。先ずはタマネギから。」

 タマネギのボールを受け取って、大鍋に牛脂を三個投入して油にして、タマネギを炒める。次いでジャガイモ、ニンジンを加えて炒めて行く。その間に豚肉の細切れにSBカレー粉を塗して貰う。

「これは母親伝授でさ。野菜を十分炒める。炒める事で、野菜の甘味・旨味が増す。カレー粉を塗した肉を投入して、肉を炒める。肉にカレー粉を塗す事で、多少のカレーの強弱が出来る。炒め終わったら、水を加えて頭の好く為る味の素、カツオ出汁粉末、コンソメなんかの調味料を適当に入れて、じっくり炊き上げて行く。
 そのコツは、コク出しの牛脂で野菜の甘味が引き出されるまで炒めて、カレー粉を塗した豚の小間切れ肉を炒めてのごった炒めがコツなんだろうね。
 仕上げのルー入れで、最後の味調整でトマトケチャップ、ウースターソース、醤油なんかを好みに応じて調整する訳さ。」

 手作り料理好きの主婦・バルディナで在るから、納得する事も多い様で、私を男にして置くのが勿体無いの頷き様で在る。彼女には屡々云われる事で在るが、男にして置くのが勿体無いから、ロシアで一緒に日本料理の店をしようとの要請も受けた次第で在る。

「煮物、炊き物は火に掛け、冷まして味を浸み込ませて、煮て、冷ましての繰り返しで、味が浸み込んで、『味の融合』が出来上がるって寸法さ。島国日本の生い立ちが、南方、北方からの遺伝子の混ざり合い、諸文化の習合文化って云われて居る所以でね。
 こんな風に実際に遣って見ると、活字知識が頭と体の対話で色んな発見が出来て、退屈しない物さね。あの二人には料理をする感覚が無いから、勿体無いって処さ。アハハ!!」

「オゥ、それ、正しい見方ですね。流石、ダーリンは目が確かです。私達の事、好く見てま~す。本当のボスは、何時もあなたで、ナターシャもそれを知ってるから、安心して我が儘の振りが出来てますからね。みんな解ってますから、甘えて居るんですよ。ほほほ。」

 一応、炊き込み料理の仕込みも終わって、二人でポリ容器を一輪車に載せて、川に水汲みに行って来る。昼は蕎麦を茹でて、下ろし納豆蕎麦、とろろ芋を擦ってのとろろ蕎麦に、持って来て呉れたチーズ、大振りソーセージ、リンゴのデザートで好かろう。

             帰って来ると、ナターシャとヤナが帰って居た。

「如何だった? 去年来た時は、狼軍団と猪軍団が広葉樹林の縄張り闘争してたんだけどさ。狼軍団に応援しようとは思ったんだけど、人間の俺の出る幕じゃ無いと思い直して、静観してたんだけどね。」

「ああ、あれね。私は千里眼の異界の女だから、知ってたわよ。狼軍団の勝ちだったわよ。此処は開けた広葉樹の林で、川も流れて居るから、鹿、猪の好い狩場に為ってるのよ。」

「そりぁ好かった。自然界の食物連鎖が作動し始めて居るって事か。北米の家畜の敵と云われて、狼駆除が行き過ぎて、狼が絶滅しちゃった。そしたら、自然界の食物連鎖が崩壊して、自然が衰退して行ったそうだ。
 こりぁ行かんで、狼復活作戦が立てられて、イエローストーンの国立公園に灰色狼を導入したんだって。鹿数の調整者・狼のお陰で、鹿の食害から森林が復活して、森林の治水能力が復活して、川にはビーバーが増えて、これまた治水に一役買って居るそうだよ。
 当初、敵無しの狼の増加で、狼の適正数を考えて駆除を考えたそうだけど、自然界は自然淘汰の循環が働いて、捕食者の狼の数も適正数を保って、今では食物連鎖のサイクルが上手く回って居るそうだよ。」

「好く、色んな事を知ってますねぇ。感心して仕舞います。只のスケベちゃんじゃ無いですね。アハハ。」

「そんな事も無いさ。俺は動物、自然が好きだから、自然と頭に入って覚えて居るだけの事だよ。夢奇譚界では俺と狼は兄弟の様なものだからね。お前さん達にしろ、そうだろう。最初は『天空の大地』での下界侵略者に対する俺達と狼軍団の戦闘が有ったろうさ。」

「ああ、覚えてる。武闘派の私とあなたで、鞭の先に付ける刃物を作りましたね。ほら、あの後、中国女と抜け駆けしてユカタン半島の人間狩りの物語在ったでしょ。ナターシャが一大事発生と云って、召集が掛かって私達が駆け付けて、劣勢挽回に、天空の大地の応援部隊が来て、あの時の作戦と、馬上の鞭の唸り、興奮の連続で、懐かしいですねぇ~。」

「ああ、ロシアン・アマゾネス鞭軍団は、最強軍団だからな。手を休めて慰労同級会に入りたいんだが、これから、蕎麦茹での下男をしなくちゃ為らんから、川湯に入ってさ、晩の宴会タイムまで待って呉れや。」

「OK、夢奇譚クッキングコンビ待ってる~。川湯は後で一緒に行きましょう。ヤナと私は何を手伝いますか。オホホ。」

 乾麺の蕎麦茹でと出汁作りは異国の素人さん達には、説明するには面倒で在るから、掻き揚げ天のタマネギ、ニンジン、薬味のネギ刻み、大根下ろし、納豆の掻き混ぜなどをして貰う。

 ナターシャは住まう異界では魂・意思だけの存在で在るから、食べる事には関心は在るが一切作る事には興味は無い。シングルママのヤナはビジネスに忙しいしから、自分で作る時間も無いし、料理が苦手で在る。おっとり系家庭向きのバルディナは、クッキング好きで在る。

 そんな次第で、バルディナは私の作る料理には、特段の関心を寄せて呉れて居る。ナターシャ、ヤナはその間の事情を知って居るので、作業を請け負って、彼女に私の遣り方を確り見て覚えろの『エール』を送って居る。大鍋に湯を沸かせ、小鍋で蕎麦汁を作る。

「大雑把な性格だから、レシピ、軽量は無いから、入れる調味料、醤油汁の色と、覚えて呉れよ。クッキングスクールじぁ無い処が、家庭の味、作り手の味だから、ベースを覚えて、後は自分に合った味付けをして行くのが、肝心な処さ。難しく考える必要は無いからな。みんなが美味いと言って呉れれば、合格点さ。アハハ。」

「おぅ、解ります。ダーリンは、とても優秀な先生です。一々、細かい事を言わない分、後は自分で努力しなさいの『教育法』ですね。オホホ。私、頑張ります。」

   蕎麦汁は出来たから、鍋を下ろして天ぷら揚げに油を注ぎ、天ぷら粉の準備をすると。

「は~い、天ぷらをカラリ揚げるコツは、ビールでしたね。私、頭が好いから、ちゃんと覚えて~る。」のライオン娘のナターシャが、自分の飲んでる缶ビールをドボドボと注ぐ。

 刻んだタマネギ、ニンジンに桜エビを掻き混ぜて、バルディナに掻き揚げ、次いでエノキを揚げて貰う。大鍋の湯も沸騰して来て、乾麺の蕎麦茹でに入る。茹で上がった蕎麦は、冷水洗いを、ナターシャ、ヤナが担当する。

 勝手な軽口叩き、お節介、ツマミ食いはする物の、協働作業の楽しさで在る。テーブルに揚げ立ての天ぷらがてんこ盛りされ、下ろし納豆、とろろの器に、しゃもじが添えられ、各自、気に入りの物を取っての、蕎麦啜りと為る。近時は日本旅行、ネット検索で、日本食紹介は極日常の事では在るが、天ぷら蕎麦、とろろ蕎麦は在っても、納豆に大根下ろしの『地方食』は在るまい。

「オオ、これ別テースト。中々行け~る。ロシア女納豆大好き。初めて食べました。あなた、凄いシェフさんですねぇ。」
「そうじゃないさ。狭い日本だけど、伝統の其々の風土食で、色んな食べ方が在るのさ。其処に餅も在るから、焼いて下ろし納豆で食べて見な。相性が好い筈だよ。」

 人間は肌の色、食文化に違いが在っても、食への好奇心は旺盛で在る。目を輝かせて子供の様に試して見る姿は、可愛い連中で在る。冬の山中の野外食事も薪を囲んでの和気あいあいの雰囲気に、話は弾む。

               食事の後は、全員で川湯入りとする。
 2020年は世界中、コロナ禍で外出規制が掛かって居る。こんな時の現界には全く影響の無い異次元行で在るから、積もる話も山ほど在るから、大いに楽しむべしの多数決議で在る。

 <その3>
 食材まで安易にナターシャの魔法で調達する事は、或る意味ではスーパーからの『窃盗行為』に為って仕舞う。それでは、私の流儀に則さない次第で在る。瞬間移動は彼女の魔法を頼るが、買い物役は私の財布と仕事とする。冬のドーム船のワカサギ釣りにヒントを得て、ビニール囲いをすれば、太陽さえ照って呉れればサンルームの暑さとも為る。そうすれば、薪の節約にも為る。食べて、飲んで、湯に浸かるだけでは、体が鈍るだけの体重増の結果とも為る。

                   日が没すれば流石に寒い。
 川湯のテントでの宿泊は考えが甘過ぎた。冬の寝所は、ベース小屋の竪穴住居の中央の火で在る。狼達も当然に仲間達で在るから、小屋に入って来て暖を取る。狼達の身体を背に、酒とツマミで、夢奇譚のあの時、その時の話で盛り上がるベース小屋で在った。

    最初の一日を体験すれば、要領を掴む頭の良いロシアン・アマゾネス達で在る。
 翌朝は総出で一日の薪集めをして、朝飯はバルディナに任せて、私とヤナはベース小屋の前に、塩ビパイプを支柱にロープを回して、サンルームのビニールテントを張る。水平、垂直の指示は勿論ナターシャの役目で在る。

「そこ、低いでしょ。反対側を掘って下さい。其処は垂直じゃないでしょ。もっと右!! グラ付かない様に、支え取って下さい。横は三本回しましょう。筋交いも必要ですね。」

 私とヤナは、ニヤニヤしながらナターシャの指示に従う。全体を見て、的確に指示を出す役目は必要な事で在る。これも適材適所の一連の流れと云う物で在る。

「あなた達、私の悪口言ってるでしょ。私は全能の異界の女よ。アハハ!! OK、後はビニールシートを二重に掛けて、ロープ掛けして抑えましょう。」
「アイアイ、サー。」

 動画での砂漠、草原遊牧民の天幕家作りが大いに参考と為った次第で、ナターシャ指揮の下、まぁまぁの体裁と相成った。遅い朝飯は、朝日の差し込むビニールハウスでする。地面にスタイロを敷いて、断熱マットを重ね敷けば、太陽の差す日中は昼寝をしても風邪を引くまい。10時に成ったら、D2に行って来ると致そう。

「今日は何を食べたい?」と聞けば、寿司パーティをして、ラーメンのリクエストで在る。左様で御座るか、寿司は握れないから、大手スーパーで買って来る事に致そう。
 ラーメンにはチャーシュー、シナチクも必要で在るから、お得意のチャーシュー作りも伝授する事に致そう。世はチャイナウィルスの自粛下に在るからして、偶にはこんな夢奇譚も在っても致し方無しでも在る。 
 ナターシャと行くから、家に寄って長座布団、毛布も持って来る事にしよう。移動はナターシャの魔法に頼れば、夜の寝所、昼のサンルーム、川湯が在るから、湯治と思えば好い。薪集め、水汲みと食事作りで済むから、考え様では退屈もしないし、好い運動にも為る。

 そんな日の中、余裕の出来て来たヤナとナターシャ組が、川湯の上で湯気の吹き出し口を発見したと云う。
「あなた、ウラジオストクでロシアのバーニア一緒に入ったでしょ。それ造りましょうよ。ロシア人には、やっぱりバーニア欲しいですねぇ。」
「そうだな。一丁、造って見るか。」

 ヤナの案内で湯気の吹き出しを見に行く。川湯から少し上の岩場のから幾筋もの湯気が濛々と立ち昇って居る。

「へぇ~、こんな所にねぇ。今まで気付かなかったけど、寒さに現れた湯気だろうな、成程ね、蒸気が水に湧けば川湯。水が無ければ、バーニヤの湯気だもんなぁ。差し詰め、同じ湯床って事だろうね。納得!!」
「如何? 私のグッドアイディアでしょ。上手に考えてバーニヤをプレゼントして下さい。こう云うの造るのは、私達がベストコンビでしょ。オホホ。」

     体育会系のヤナは、ヤル気満々のファイティングポーズを採って笑って居る。
「了解。行く行くは此処もロシアンアマゾネスの『隠し世界』に為るんだろうから、川湯にバーニアは好い日露のセッティングって訳だ。そうと決まれば、遣るかい、相棒さんよ。」
「勿論。遣りましょ、造りましょう。」

   先ずは湯気の中心部を探して、1坪半程のスペースにバーニヤ小屋を見取り図を描く。
          イメージが描けた風で、ウンウンと頷く相棒殿で在る。

    「ナターシャ、来て呉れ~。」と呼べば、パッと姿を現す異界の女で在る。
 此処に温泉蒸気を利用したバーニヤを作りたい。大きさと内部はこうで、材料は加工のし易い竹材で、道具は鋸2、鉈2、川砂利に、川砂、スコップに鋤簾、一輪車、針金、ペンチ2、トラロープの細い物、梯子とリクエストする。

「OK、任せなさい。」と見て居る間に、即座に用意をして呉れた。
「如何。少し手伝って行く~か?」

「如何にか為るだろう。バルディナを手伝って、薪集めと美味い昼の差し入れを頼むよ。」
「そうね、分業した方が好さそうね。ヘルプして欲しい時は、直ぐに呼んで。二人で来て上げるから。」
「分かったわ。ヤナじぁ、始めましょ。」

 地面の凸凹を埋める為に、私は一輪車に川砂利をスコップで掬って、凹みに開けて行き、ヤナが鋤簾で均して行く。川砂利で平らに成った上に、今度は川砂を敷いて均す。
「砂は厚い方が好いだろう。」
「そうですね。砂利より砂の方が気持ちが好いから。大丈夫?」
「大丈夫だよ。抜かりの無いナターシャの事だから、俺とヤナに魔法を掛けて行ったんだろうさ。」
「そうね。まぁ、それもナターシャの優しさなんでしょう。でも、半分は、早く造れの『催促』も込められて居ると思いま~す。」
「そりぁ言えてるけど、あんまり本当の事を云うと、地獄耳で筒抜けだからな。褒めとく分には、お仕置きは無いって事さ。アハハ。」
「おうおう、相変わらず、狸さんですね。あなたは、人を使うのが上手です事。オホホ!!」

 さぁ、バーニヤ小屋の下地が出来た。中にセットするベット風の据わり台の工作に移る。コの字にセットする心算で在る。板なら釘打ち出来るが、材料は全て竹材の加工で在るから、麻紐縛り、針金止めで在る。それが完成すると、それに沿って、外壁を作って行く。高さは2mとして、明り取りの小窓部分は開けて置く。縦竹に横竹を咬ませて紐と針金で固着して強度を作る。

「おう、如何しましょう。隙間だらけ。」
「問題ない。外からもう一段重ねるから。多少の空気の流通が在った方が好都合だよ、バーニアの熱源は人工の火だけど、温泉熱源だから、『鉱物毒の心配』が在るからさ。」
「おう、あなた、流石に頭良いですね。」
「伊達や酔狂に、歳は取って居ないもんさ。安全が第一だよ。日本の義務教育はレベルが高いんだよ。アハハ!!」

  二重の竹壁が完成しても、殆ど疲労を覚えない。矢張り異界の女の置き土産効果らしい。

「さてと、屋根掛けに移ろうか。先ずは横に3本渡そう。其処に縦に並べて行けば、如何にか屋根の体裁に為るだろう。屋根だから、雨漏り防止の為に二段屋根の間にブルーシートを張ろうか。それの方が好いな。そうしよう。ナターシャ、ブルーシート2枚頼む。」

 頼めば、音も無く忽然と現れるブルーシートで在る。おやおや3枚は、ナターシャの『早読み』らしい。一段目竹並べの上にブルーシートを敷いて、屋根は確りして居るので、ヤナも上って来て、壁に立て掛けて置いた竹を引き上げて並べながらの紐、針金の固着をして行く。二人作業で在るから、思った以上の速さで完了した。多少の縁の凸凹は、風情と云う物で在る。

「好し。下を片付けて、休憩したら、温度上昇を観察しながら、内部の仕上げをしようか。」
「好いですねぇ~。どの位の温度に成って居るか。楽しみです。成功したら、鼻高いですね。」

       煙草と吊るし柿の一服を終えて、功労者のヤナにお目通りを願う。

「おう、大成功!! 未だ低めのバーニアだけど、時間が経てば、マイルドバーニヤに成る~。今は夏の温度。あなた汗掻くから、私はヌードで仕事します。あなたも一緒に脱ぎなさい。気持ち好いですよ。」

 はいはい、郷に入ったら郷に従えで『バーニヤに入っては、バーニヤに従え』と云うのが世の倣いで在る。お互い全裸が恥ずかしい仲でも無い。至ってシンプルこの上ない男女の協働作業の様な物で在る。隠そうとすると見たく為るのが人情ながら、全裸を意に介さない動きをされて仕舞えば、邪心も生まれないのが、私の奥ゆかしくも真面目な性向なので在ろう。

「裸仕様だから、あなた、節の所、切り口の所は、サンドペーパー掛ける必要在りますね。ナターシャにリクエストしましょう。あっそうだ。バーニャには、体温を下げる『水風呂』必要です。如何、造りませんか。」

「そうだなぁ、川が近いから、竹を割って節を欠いて水を持って来て、残ったブルーシートを敷いて池を作るしかないな。乗り掛かった舟の、ロシアンアマゾネスファーストだ。これもおもてなしの一環だろうしな。後で造ろうじゃ無いか。」

 全裸にして、汗ダラダラの品行方正作業して居ると、ナターシャとバルディナがランチを持って、様子見に来た。

「ちょっとちょっと、あなた達、スッポンポンで隠れて何してる~。私達の目を盗んで昼間から『してた』でしょう。駄目でしょう。あなた達、罰で水風呂造りなさい。私達、バ~ニヤの点検しますから。アハハ!!」

★ナターシャの奴め。『抜け駆け禁止の魔法掛け』」をしてからに。抜け抜けと休憩もさせないで、『罰作業』と来たもんだ。

 毎度の事ながら、異次元界のボスはナターシャで在るから、一々かまって置く必要も無い。ハイハイと云って、舌を出して私とヤナは、最後の踏ん張り仕事に服を着て外に出る。

 中では、ナターシャとバルディナがバーニャ入りの作法で、早速、全裸の様で在る。一応、手にサンドペーパーを持って居るから、真面目な物で在る。服を着てのサンドペーパー掛けをするよりも、全裸柔肌の据わり心地、寝心地を確認しながらのペーパー掛けは理に適って居る次第でも在る。

 好都合に、好い場所に窪地が在る。深さを考えて、その周囲に石を積み増す。ブルーシートを敷いて水風呂とする。今度は太竹を二つに割って、節欠きをして川水からの取り入れ口を作って、割り竹を二列に並べ敷いて、水をブルーシートの池に導く。素人の造作としては、上出来で在る。後はバーニヤの中で、スチームバスをしながら、ランチタイムをして居る内に、水風呂の水も溢れて行く事で在ろう。

            水風呂完成で、私達もバーニヤ入りをする。
「4人用と成ると、これは脱いだ服の入れ物が必要だな。それは明日作ろう。」
「そうでしょ。是非、お願いしま~す。」
「中は4人だと狭い。外に作って下さい。」
「真ん中に、小さなティーテーブルも欲しいですね。冷えた缶ビールにツマミ、フルーツなんて、バーニヤ・サロンにしましょうよ。温度がマイルドだから、我慢しなくても、ロングタイム出来るでしょ。」

 ロシアンアマゾネス連の感覚だと、マイルドバーニアで在るそうな。日本人の私からすると、十分な蒸し風呂温度なのだが、これも生活習慣の差異なのだろう。

「服入れに、ティーテーブルかいな、何か、こりぁ長逗留に為りそうだなぁ~。しゃ~無いけど、こんな夢奇譚も在るんだろうな。サンルームにバーニアが出来たんだから、長逗留しないと、元が取れん。」

「勿論~。優秀なコックとアシスタントが居るから、薪集めなんか苦に為らないし、食材はスーパー調達で、私の魔法で瞬間移動出来るしね。これだけ揃えば、広い広葉樹の林でしょ。明日は私が馬を調達して、狼達と狩りに行きましょうよ。その位の冒険が無いと、面白くないでしょう。」

「そうだな。そりぁ、好い。この異次元界に於いちゃ、歴戦のロシアン・アマゾネスだからな。」

 <その4>
「これ、はしたない。お股の岩戸を閉じんかい。」
「何よ~。それ。バーニヤは熱いから、表面積を広げて、体温調整でしょ。」
「そうよ。男と女の体の作りが違うでしょ。」

「あなたも体温調整で、遠慮は不要よ。大きくしなさいよ。ほらほら。」
「好いのよ、好いのよ。ボクちゃん、正直に為さい。ホラホラ。」

「コラッ、寄って集って、何をするんじゃい。俺の現在の生活は、性欲離脱の人畜無害の穏やか生活者だぞ。」

「あ~ら、そう。変じゃないの。如何したの、これは。ピクピクしてるじゃないの~。」

「煩い。自律神経・海綿体なんて、例外箇所も在るんじゃい。多勢に無勢で、孤立奮闘の抗議に立ってるだけじゃい。馬鹿もんが、コリァ、寄るな、触るな、握るな、舐めるな。」

「何よ、格好付けちゃって。未だお一人の分のスタミナ無しねぇ~。ロシアン・アマゾネスの間には、不平等、不公正が在ったら、異界の魔法使い教官の恥だわ。私の魔法のバイアグラ散布して上げ~る。」
「馬鹿野郎。そんな事されたら、身が持たんぞ。この歳で腹上死ならまだしも、腹下死なんぞしたら、家紋の恥で墓入り拒否されちまうがな。春秋の彼岸、盆と欠かさず、墓参りをして来たんじゃい。如何するんだよ。」

「ジャスト・モーメント!! オゥ、アナタ、それ、男女差別です。撤回して下さい。」
「ダーリン、私は騎乗位が得意で、大好きです。」

「煩い。どさくさに紛れて、何を言うんじゃい。日本語の譬え、言い回しじゃい。俺はバックで、猪突猛進が好きなんじゃい。知ってるだろうが~!!」

「任せなさ~い。一切副作用の無い、私達に過不足の無いバイアグラ処方箋して上げます事よ。オホホ!!、ソ~レ。」

  ★ったく、先人達のシベリア抑留の無念さを、つくづくと味合わされた顛末で在った。

 <その5>
 さて翌日は、朝飯、薪集めの後は、竹材でササッと昨日のリクエスト工作をして、栗毛の馬に乗っての馬族の探索行で在る。冬の着膨れでは在るが、これも現実的で好かろう。

「狼群を従えての、騎馬行は好いねぇ。遊牧民族の生活ルポの予定だったけど、流石にナターシャは、憎いプレゼントして呉れるよ。サンキュー。」
「如何、やっぱり、あの世での結婚相手でしょ。口は悪いけど、四拍子揃った良い女でしょ。あなたは四拍子揃った不運男。足し引きしてフラットのベストマッチの男と女ですからね。ホホホ。」

 晴天に時折吹く風に、落葉の梢に小鳥の小群れが、渡って行く。カサカサと音の鳴る方向を見遣れば、尾を立てたリスが枝から宙を飛ぶ。

「あなた、馬に狼、猟がしたいですね。猪は無理でも、七つ道具の鞭で、兎、雉は獲れるかもですよ。遣って見ましょうよ。」
「体育会系のヤナの血が騒ぐか。俺も縄文狩人の血が蘇るでさ、一発、遣って見るかい。」
「勿論~。」

 狼達を勢子に、英国の狐狩りに準拠して、天空の大地に木霊した騎馬の疾走が気勢を挙げて、進撃する。今年の暖冬続きの12月と比べると、2月の酷寒に相当して居る。狼、馬、人間と全てが吐く息は白い。益してや、森閑と凍て付いた自然界の大地で在る。それでも生を賭けた生き物の躍動感が、血を湧き立たせ、大地に動きを追って、疾走して行く。

 寒い、完全防寒の寒冷地仕様で眼だけが見開き、獲物は何か。兎か鹿か、猪、雉、山鳥か、視界の全てに神経を凝らせる。中々に獲物を嗅ぎ出せない先頭集団狼群で在る。狩りは、始まったばかりで在る。日々の食料調達は大手スーパー買いで在るから、誰にしても狩猟採取の逼迫感は無い。自然界に於いても、狩りが高率で成就される訳では無い。徒労に終わる事に、寧ろその生存競争の価値が在る。運に向かって、協働する事に意味が在る。

「駄目ですねぇ。魔法使いましょうか。」
「いやいや、それには及ばんよ。『無駄な殺生をするな』と云う異次元界の意志だろうよ。欲を出して、お叱りを受けるより、雰囲気を体験出来るだけ可とすべしだよ。馬の提供だけで充分だよ。」
「そうね。向こうに、何かが見えるわ。」

 馬の進みをスローダウンして、近付けば狩人の一団で在る。彼等の腰には、見事な鞭が携えられ、山刀、肩には弓と矢が背居られて居る。その下には横カバン風の物が襷掛けされて居る。

「あなた方は、伝説の王と吾が母達では無いですか。」と下馬して、恭(うやうや)しく跪く天空の大地の狩人の一団で在る。皆、鼻筋の通った彫りの深い顔立ちにして、中には茶髪の者も居る屈強な男達4人で在る。見るからに日本人離れした面々で在る。馬の背には鹿が一頭載せられて在った。

「おおう、お前はナターシャ、お前はヤナ、お前はバルディナの血筋だな。好く似とるわ。血筋は争えんな。そうかそうか、天空の大地は健在で在ったか。」
「おお、お前達、寒かっただろう。私達は、ちょっと此処へ遊びに来て居た処なのよ。天空の大地の話を聞きたいから、少しここで遊んで行くと好いわ。」
「暖かい温泉も、蒸し風呂、それなりの暖かい寝所も在るのよ。お土産話を持って帰りなさい。」

 狼達を口笛で呼び寄せて、狩りの終了とする。私達の後から、狩人の一団が従って来る。葉を落とした広葉樹の林に午後の日差しが照って居る。私達をとり囲む様に、狼の群れがゆっくりと歩調を合わせて居る。天空の大地の住民達は、狼と暮らす共同体を営んで居るらしく、ごく自然の雰囲気で見て居る。

「此処が、寝所として居る小屋だ。腹も減って居る事だろうから、何か作って食べさせて遣ろう。作るのはバルディナとするから、お前達は暖かいサンルームで、ナターシャとヤナで話をして待つが好い。伝説の母達にお前達の生活を報告して遣って呉れ。」

「ダーリン、あの子達に何を作って上げましょうか。食べた事の無い物を作って上げたいですね。」
「そうだなぁ、此処に在る食材で食べた事の無い物か・・・早くて簡単大量と成ると、カレーライスだな。」
「そう、それで行きましょう。カツカレーの替わりに、ロシアの大きなソーセージも茹でて、載せて上げましょう。」
  
 そうと決まって、バルディナが(少し時間が掛かるから、川湯とバーニャでスッキリして来て』と声を掛けに行く。

 伝説の母達とのバーニア、川湯での好い時間を過して来た一行が火照った顔で帰って来た。私は狩人、彼女達からの話を聞く。

 彼らの生活の場は山地の状況に合わせて、平地の水に恵まれた場所では溜池を作っての稲作、水恵まれない傾斜地では麦、蕎麦、野菜栽培の農業、なだらかな丘陵地帯には牛・馬の放牧、斜面が急な地域では羊の放牧が為されて居て、季節に応じた高低、南北の移動をして居ると同時に、農業、放牧は固定せずに、ローテーションを組んで、皆が農業、放牧を学ぶ形を採って居る。
 山上湖では養殖漁業も行われて居る。平地農業での灌漑には溜池が使用されて居て、秋には池払いが行われ、鯉鮒、エビ・ドジョウなどが、山の蛋白源にも為って居る。

 山の食生活は、小麦・豆類が上回り、米は1/3程度との由。放牧の影響で肉・乳製品が多いとの事で在る。まぁ、其れも地勢と母達の食文化による物なのだろう。

 面白い所では、春祭り、秋祭りには、伝説の王と母達の面影を偲んで、其々のそっくりさんが、長老達によって選ばれ、山の民の大親睦会が2日掛かりで行われ、親睦会の大人気な競技が、乗馬、弓、槍、刀、鞭、相撲で在り、締め括りは紅白に分かれての人間と狼に依る攻防戦との由。それも男組、女組の二競技が行われて居るそうな。

 そんな川湯、バーニヤ報告を受けながら、陽の傾き始めたビニール囲いの中で、カレーライスを食べる。カレーに添えたロシア土産のソーセージを見て、彼等は横カバンから自分達の食料の黒ずんだソーセージを取り出して、ニコニコして居る。私達は頷きながら、彼らのソーセージを回し食べをする。それは羊の腸詰にしたロシアンアマゾネスが山の民に伝授した作りで在った。

 カレーの臭いを嗅ぎ付けて狼達が、『早く食わせろ』とビニールハウスの回りを狂おしく走る。

「冬の夕暮れは、釣瓶落としだ。湯冷めしても芸が無いから、ベース小屋に場を移そう。」

 狼達は冷えかかったカレー鍋を取り囲んで、長い舌を入れて見るが、狼達の舌には未だ手に負えない御馳走の様で在る。冷えたら、最後の最後まで舐め尽くして呉れるから、鍋も食器も、其の儘に置いて来る。

「競技会は、何処でするのか?」

「集落には出来た順に、本集落と別れ集落が御座います。毎年の集まりは、本集落にて。5年に一度、天空の大地の神聖場所・前方後睾丸墳で、全国の集落の選ばれし者達が一堂に会して、競技会を創造主の伝説の父なる王と、三人の母達に捧げて下りまする。睾丸墳の観覧所には、伝説の王と母の生き写しの4人が長老達によって選ばれて居りまする。」

「ほう、左様で在るか。健気な者達よなぁ。ご苦労で在る。礼を言う。処で、山界と下界の交わりは、如何して居る。」

「勿体無きお言葉。こうして伝説の王と母達をこの目で・・・。長老達によって、語り継がれて来た伝説が、真で在ったとの感激は忘れずに伝えまする。山界と下界の交わりは、
物資と技術の交換と血の薄めを防止する為の棲み分けをして居りまする。これも代々に受け継がれて居ります『孤高に生きよ』の伝説の王と母達の訓えで在りまする。」


「左様で在るか。して、教育と護りは如何して居る。」

「はい、教育は発祥の地に学び舎を設け、訓えと技術、国護の期間を敷いて居りまする。今では山の民も多く、其々の山脈に生活を営んで居ります。其々の地域から選ばれし者達が、中央で学び鍛えられ、地域に帰って地域の物を教え鍛えて居りまする。秀でたる者達は、その専門を以って、地域を循環して回って居りまする。ご安心在れ。父なる王、母なる方々よ。」



「相分かった。我らが血筋の者達よ。畏(かしこ)まる必要は無い。ゆるりと火に当たり、酒を酌み交わして、母御と語り明かすが好かろう。学ぶ物が在れば、帰って天空の大地の住民達に活用するが好い。ワシは狼達と天空の星雲団を見て来ると致そう。」

 翌日、朝に狩人の一団は土産物を幾つか貰って帰って行った。その中には豆を応用して、納豆を作れとのバルディナの納豆持たせも在った次第で在る。

「如何でしょうか。私達も彼らの集落に行って見ませんか。是非ともあの子達の暮らし振りを見て帰るのが、私達の務めと思うんですけど。」

「それは駄目だ。俺達からしたら、数年前の事だけど、彼らにしたら100年、500年の年が流れて居る。俺達は、伝説の王と母達で充分なんだよ。話を聞いて、態度・表情を見れば、上手く行って居る事が解るじゃ無いか。
 下手な老婆心は、しない方が好い。世に伝説の王と母達が存在する事を知ったのだから、後は彼らの自治に任せるのが、親の役目だろう。伝説は伝説として、出し惜しみをして置くのが、自発性の涵養にして、御利益の道と云う物だろう。」

「オオ、それが王の判断ですか。王に従うしか在りませんね。でも、あなたは変わりましたね。私は異界の女ですから、待ちます。ヤナにバルディナは幸せね。二人は自分の子育て、人生に活かせるから。」

「勿論、為に成る事を、普通の穏やかさで示して呉れるから、最高のティーチャーさんですからね。マダマダ、若くて動きも好いですから、ナターシャの助力で、もっともっと夢奇譚の続行をお願いしま~す。」

「今年はチャイナウィルスに明けて、それに暮れようとしてますけど、偶にはこんな同級会が出来て、最後に帳尻が合いましたね。おほほ。」

「そうだなぁ、これも一重に異界の女・ナターシャのプレゼントだもんな。感謝感謝だよ。」

 
   夢奇譚第37部・・・コロナパンデミックス、自粛の巻・・・完
                            2020/12/22 BY アガタ・リョウ 



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