長駄文館・・・試運転航行の参加為り。
- 2021/08/17
- 10:17
試運転航行の参加為り。(8/16/21)
<その1>
色んな事が在るのが、生活、人生と云う物で在る。12日の墓参りをしての会社集合に向けては、霊園から国道に掛けてが渋滞で全然進まず、私としては珍しく5分の遅刻と為って仕舞った。4泊5日の各自の荷物を積んでの出発で在る。
A君運転で一路横須賀に向かう。スマホでお天気情報をKちゃんが検索するかが、ズーと前線の停滞で、波乱の状況らしい。前席はAKコンビ、後部席は兄弟コンビの4人行で在る。横浜に近付いて来ると雨が降って来た。横須賀海岸通りはシュロと黒松の街路樹の並びで在る。道路標示を見ながら、ペリー来航を頭のテロップを当たって鉛色(にびいろ)の海を眺める。
岸壁にクルーザー、ヨツト、小漁船、ジェットスキー・・・etcの修理、解体船が陸揚げされて居る。保管費用が格安との事で、彼是7、8年の付き合いとの由。弟のクルーザーが二艇置いて在り、クルーザーの修理、塗装する時は、一艇に寝泊まりして仕事をして居るとの事。
今回クルージングする艇は38フィートで寝室2部屋にリビングはベット使用出来ると云うし、キッチン部屋のリビングもベット化出来ると云う豪勢な大きさで在る。
それを60万で買い、エンジンを300万で購入、発電機も購入して、配管設備も仕事の合間を見て船体修理、ペンキ塗りも自前で遣って来て、今回初の試運転兼神津島クルージングの運びとの事で在る。
手放した筈のクルーザーが在るので、『懐かしい』と言ったら、これは別のポンコツ船にエンジンを載せ替えて、買い手を探して居るとの由。流石に商売人で在る。
横浜組4人が同行するので、4泊5日分の食糧を歩いて行けるAVEに行って調達して来る。客入りの多い大店舗で異国に居る様で、商品を探すのに迷子に為って仕舞う程で在る。テント、椅子、テーブル、各自の着替えバック等を積み込む。
<その2>
総勢7名の男達は、丘に上がった2艇に分かれての就寝と為った。翌朝8時に大型クレーン車が到着して、クルーザーの海降ろし作業が小雨の中、開始された。然しながら、これが港内の波かと思われる程のウネリで在る。
岸壁が高いので、上船は小型の浮き桟橋を降ろして乗り込むのだが、波のうねりに翻弄されて、船に手が届かない。タイミングを取り損なうと、海に落下で在る。船を見て居るだけで、『船酔い』の様で在る。嗚呼、歳は取りたくない物で在る。
A君がバーに飛び付き、必至でよじ登って行く。弟がタイミングはズレた物の、足をバタ付かせてよじ登った。Kちゃんが続いて成功で在る。とうとう、私の番が回って来て仕舞ったる
いや~、こりぁ、怖い。身が竦(すく)む。うねりに翻弄されるクルーザーと浮き桟橋の隔たりに、両のリズムの合致するタイミングを『冷や汗もの』で、推し量る。
今だ。手が届いた。よっしゃ!!
最年長73古希坂親父の必死の短足が掛かって、意外とスンナリ上船出来てホッとする。
ホッとするのも束の間で、これから伊豆大島通常で3時間半の試練の船出で在る。
私は、根が小心者で在る。船室に居ると淀んだ空気に酔うだけと云われるが、幾らライフジャケツトを着て居ても、ズッこけて海中落下しよう物なら、自分だけに終わらない。皆に迷惑を掛ける。それを考えれば、船酔いに遭っても、それは自分だけの事で在るから『踏ん張る』しか無い。
さぁさぁ、引き返す事の出来ない。試練、我慢の出港で在る。
クルーザー体験は何度かして居るので、目を閉じて居てもエンジン音、スピード、揺れの状態で、弟の操縦状況は頭に浮かぶ。中央のリビングルームで進行方向のソファに足を踏ん張り、両腕でソファを掴む。
波待ち、波を選んでの波頭切りの全速力、波待ち低速、方向換え、波頭突破、バシン、バシン、ドタン、ドタンの2、3m前後の『叩き』と云われる船体の落下、波待ち時の横揺れ、その苛酷さでの連続航法で在る。
時々、『お兄さん大丈夫ですか』『ああ、大丈夫。乗った以上は、我慢するしないわ。放って置いて好いからね。』
時計を見る。通常は3時間強の波浮港入りで在る。時間はオーバーして居る。弟も必死だろう。遺憾いかん、大分悪く為って来た。『吐く用意』をして置くか・・・。波待ちの横からのうねりに我慢が限界に為って来た。通常航行の一時間半のオーバータイムで、波浮に着いた様で間一発、『醜態回避』が出来た。
人間の体は正直な物で在る。不動の陸地に上がって、水を得た魚状態で、早速のテント設定が始まり、炊事担当のKちゃんと横浜組のUちゃんがテキパキと料理を運ぶ。Uちゃんは好い鰺が大量に釣れたので、魚派の私の為に油に咽(むせ)ながら、南蛮漬けを仕込んで置いて呉れたそうで在る。身厚で新鮮味で美味さ抜群物で在る。ビールで乾杯して、7人の男達は『にこやか談笑会』へと進む。皆、操船する男達で在るから、スマホで天気情報を取得して判断材料とする。
昔テレビで、『椎名真と愉快な仲間達』と云う番組が在った。言って見れば、その現実番が目の前で展開されて居る次第で在る。親の七光と云う言葉が在るが、私の場合は完全に『弟の七光』で好い思いをさせて貰って居る次第で在る。
<その3>
翌日は天候の回復を期待したが、悪く成る一方で在る。そんな中で、A君の母親が救急車の搬送との事で、『緊急事態発生』と相成った。
「A君、離れて電話したい気は分るが、皆の前で電話をするのが一番好い。そうすれば、色んなアドバイスと、状況を共有出来るぞ。頭のスウィッチを切り替えろ。」
「兄貴の言う通りだ。お前は自己処理能力が無いんだから、碌な事に為らんぞ。馬鹿垂れが。」
弟に如何思うと問われるから、ホームズ手法で推理して、対処策を応えると、『そうか、俺もそう思う。理性的判断も期待出来無いから、帰す。』と云う。幾ら持って居ると聞かれて、大丈夫ですと答えるが、馬鹿野郎、それで足りる訳ないだろう。これを持って行けの例のカミナリ社長の一幕が在ったが、連絡船で新宿から電車帰りと為った。
続いてクルーザーのエンジン系統のバッテリーが逝かれて仕舞ったとの由で、弟と解体修理屋の社長のHちゃんとの本格的原因究明と復活修理が始まる。
中央のリビングルームは床を剝されて、横文字の取扱説明書との首っ引きで、電気系統の模索が始まった。図面から設備を立ち上げる設備屋手法と解体修理手法の二人の遣り取りは、手順の方向性が違うだけで、双方が『補完関係』に立つアプローチ振りは、『餅は餅屋』で在る。何も出来ない私は暗部照明係として、大いに参考と為った次第で在る。
<その4>
翌朝は3度目の正直で、エンジンが掛かって、バッテリーの予備の購入と一部電気回線の改善点が出て来たと云う事で、落着して神津島遠征は悪天候の為、中止と為りレンタカーで島内観光と相成った。
漸くのA君からの報告が入って、案の定の推移で在った。
本町港沖の波頭の高さ、大時化(おおしけ)の海模様は完全にギブアップに誰も異存の無い処で在った。御神下温泉に浸かって、三原山山頂に行くが濃霧と寒さの短時間下山と相成り、昼はラーメン屋での昼食と相成った。『釣りをするしか無い』で、遣っては見た物の殆ど釣れずに、断続する雨にテントでの『雨宴会』として過ごす。
次から次と出るK、Oコンビに依る料理の腕たるや、佐渡行で目を見張った次第では在るが、和風、洋風共にプロ並みの味と、盛り付けで在る。
組織の一歯車のサラリーマンと違って、其々が自営業者の船仲間と云うのは、一緒の船に乗ったら『運命共同体』と云う根っこの部分が在るらしく、愉快な仲間達以上の共同体関係が小さな動作にも垣間見える。
自営業者と云う『自由人気質』が本々在るには違い無かろうが、『板子一枚下は地獄の、運命共同体同士の気持ち』が通い合う関係なのだろう。
普段の日常付き合いの世界だと、何かと出来ない理由ばかりが先行するのが娑婆模様では在るが、『おっ、分かった』の二つ返事の男世界は、一緒に居るとほっとする物で在る。
波浮港連絡船は欠航続きで在る。協議の結果、悪く成る一方の天候に直接横須賀帰りを断念して、『危険度の分割策』で三崎まで行って一泊の選択を決定する。
さぁ~、出港で在る。
出港間も無く、叩きと波待ちの横揺れの怒涛攻撃に、船内は扉と云う扉は、乱打に次ぐ乱打状態と成った。窓を見れば海中に居る様な物で在る。冷蔵庫の扉が開いて、中身が散乱して居る。
冷蔵庫の扉を閉めに行こうと立ち上ろうとすると、揺れに弾き飛ばされた。タイミングを計って立ち上がると、立ち処に弾き飛ばされた。
駄目だ。最悪の状況で在る。下手に動いたら、フロアに吐いて仕舞う。這いづって、ソファに座る。
バシンバシン、ドシンドシンの叩き付けと横揺れにギブアップで『覚悟』を決めるしか無った。
弟の操船する○○号は、翻弄の大海原にエンジンを全開に、そして耐えるスローダウンを繰り返し、壮絶な航行で踏ん張って居る様が、肉感出来る。闘争心と弱気、守り抜くの責任感が実感出来る。
横浜組のOさんに貰ったゴミの大袋を、粗相の無い様に頭から被って、『海は大時化、吾が身は、嘔吐の大海原に没して行くのみ』で在った。
吐きに吐いて、もう胃液しか出て来ない苦しみで在る。遭難の心配は起こらないが、この苦しみは何時間続く事やら、『引き算の出来ない苦しみ』が続く。
後で聞いた話では在るが、弟が兄貴は如何だの問いに、『ビニール袋を頭から被って、死んでます』の報告が在ったそうで在る。いやはや、情け無しやで在るが、これが私の等身大の現実で在る。
『虫の息地獄』の中で、300T船・『咸臨丸』が生きて太平洋を越えた苦難を考えれば、弱音は吐けない。船酔いで死ぬ訳も無いのだから、『忍の一字在るのみ。我慢我慢。』の念仏唱えでしか無かった。
小便も出来ぬから、ビニール袋に放出で在る。地獄の攻め苦の中で、それが唯一の気持ちの好さで在った。
其れが三崎港に入った途端に、揺れが無く為った。ああ、終わった。
「Rちゃ、大丈夫だったか。」弟はエネルギーを使い果たして、げっそりとこけて居る。
「俺は死んでたけど、操船は大変だっただろう。御苦労さん。お陰で生きてるわさ。」
「疲労困憊。塩水で目が痛くてさ。いや~、時間掛かった。丘に上っちゃえば、もうこっちのもんだ。マグロの三崎だ。美味いのを食べに行こうよ。腹には、何も無いだろうからな。」
三崎港の波の無さには驚くと同時に、何度か来て居るのに『城ケ島の雨』で有名な島が対岸に在ったのを、初めて知った次第で在った。雨は降る降るで始まる、城ケ島の雨は名歌・名曲の一つで在る。夜には、ヨットが一艇入港した。夫婦二人の躁船の様で在った。
<その5>
夜中、突然の寝言で目が覚める。
「この馬鹿野郎が、ふざけるな。土下座させるぞ!! それでもいいか。」
「横だと思ったら、Kちゃんが言ってたぞ。土下座させて許して遣るって云うから、紳士だわ。」
「えっ、寝言言いましたか。好く遣るらしいですよ。最後はライダーキック遣って、痛い痛いで飛び起きちゃうんですよ。」
「ああ、やっぱり。Kちゃん、何か言って居たんだ。」
「社長がA君を怒って居たのかなと思って居たんですけど。」
「俺は直接、Aをドヤシ上げて発散させてるから、夢にまで癇癪玉は起こさないで済んでるわ。夢でも『延長戦』遣らされたら、堪らんわ。」
「そりぁ、言えてる。」
翌朝のリビングモーニングコーヒーでの一光景で在る。
船内リビングでの朝飯は、一時間半程の航行との由で在ったが、私は『安全牌』を取っての朝食抜きとする。
トイレ、歯磨き洗顔をして鏡を見たら、何と毛髪の無い弟の顔が在って、好く似て居るものだと感心して仕舞った。今回の航行で一番穏やかな時間で在った。
さて、横須賀に向けての出航で在る。それでも、時間が掛かったとの事。相変わらず、港のうねりが大き過ぎる横須賀の波の荒さで在る。
大型クレーン車の到着で、今度は吊り上げ用の帯を水中に下して、其処に船を入れて行く作業を見学させて貰った次第では在るが、人間とは大した『芸当』をする物で在る。
楊陸されたクルーザーを全員で雨の中、丹念に真水洗いをして、荷物を運び出す。試運転航行をして不都合箇所の組み換え、修理を進めて行くそうで在る。
『好きこそ、物の上手為れ』では無いが、設備屋&解体修理屋連合体は、如何やら最強体の様で、中古クルーザーをネット販売して行くそうな。セブのゲストハウスが完成すると、場所を変えて、松本組と横浜組で屋上の集いを開くそうな。
帰りに横須賀中華店で、私を紹介する為に飯を食べて行くとの由。
「これが、俺の兄貴だ。」
「わぁ、噂の社長のお兄ちゃんか。好い男で素敵な声で声優したら、バチグー!!」
「同じ発音でも、俺のは『性優』の方だけどね。へへへ。」
「俺も、言うと思ったよ。」
「社長には聞いて居たけど、そっくりじぁ無いの。見た瞬間に、二人とも好い雰囲気を持って居る。絵に為る仲の好い兄弟だわ。お兄ちゃんと居ると、社長の顔がホントに柔和でリラックスしてる。羨ましいわ。」
「そうずら、俺は弟だからね。種と畑が好いと、こう為る見本だよ。アハハ。」
四国出身の旦那の味付けは味が濃くて、男の口に合うしボリュームで在った。何よりも、アットホーム的夫婦の『町中華店』で在る。
横浜組は弟から、何かと私の話を聞いて居て、好いコンビ過ぎるから、ちゃっかりとスマホで『動画撮り』をして置いたと云って見せて呉れた。いやはや、好く似て居る者同士では無いか・・・驚いて仕舞った。
他人様から見たら、私達兄弟は面白い関係に見えるらしい。弟は目下、総入れ歯に向けての硬い物食べれずの状況で在るから、私は横に座らせられて、噛めない物が私に回って来るし、残した物も私の処に、極普通の動作で回って来る。妖怪様の躾で食べ物を残すのは下品者のする事の訓えを継承して居る次第で在る。座る処も、寝る処も一緒で、話も兄弟話が多いから、傍からは面白い光景に映るらしい。
今回は地獄のクルージング行の結果に終わったが、再生クルーザーの試運転航海に私を誘って来る処が、如何にも弟らしいでは無いか。
試運転航海も無事終わって、熱い風呂に浸かって、洗濯物をして、大時化の試運転行の最良チェックが出来た次第でも在る。コロナ禍が一掃されて、セブのゲストハウスがオープン出来たと為れば、中禅寺湖のSさん、横浜組との海外バカンスにもひっぱり出されて、冥途の土産話にも為ろうか。
『老後の人の輪は、大事にすべし』で在る。
これにTが加わって居れば、おっ、分かったの二本線トリオで番から男同士の好い付き合いが続いて居だろうが、思い通りに行かないのが人生と云う物で在る。
日課のブログ打ちを5日もして居ないと、忘れ物をした感じで在る。この長雨ですっかり忘れて仕舞った夏の気温で在る。背後からは長雨に濁った増水の川音、廊下からは秋の気温に鳴くキリギリスの掠(かす)れ声の聞えで在る。丁度12時で在る。
それにしても、今日も雨で在る。四泊五日の留守で庭のマンジュシャゲは、委れて無残な花の終わりを告げて居る。ラジオによると、大雨注意報が出て居る松本で在る。妖怪様が兄弟仲好くで、お盆休み、久し振りの兄弟行のプレゼントをして呉れたのだろう。感謝感謝の段で在る。
<その1>
色んな事が在るのが、生活、人生と云う物で在る。12日の墓参りをしての会社集合に向けては、霊園から国道に掛けてが渋滞で全然進まず、私としては珍しく5分の遅刻と為って仕舞った。4泊5日の各自の荷物を積んでの出発で在る。
A君運転で一路横須賀に向かう。スマホでお天気情報をKちゃんが検索するかが、ズーと前線の停滞で、波乱の状況らしい。前席はAKコンビ、後部席は兄弟コンビの4人行で在る。横浜に近付いて来ると雨が降って来た。横須賀海岸通りはシュロと黒松の街路樹の並びで在る。道路標示を見ながら、ペリー来航を頭のテロップを当たって鉛色(にびいろ)の海を眺める。
岸壁にクルーザー、ヨツト、小漁船、ジェットスキー・・・etcの修理、解体船が陸揚げされて居る。保管費用が格安との事で、彼是7、8年の付き合いとの由。弟のクルーザーが二艇置いて在り、クルーザーの修理、塗装する時は、一艇に寝泊まりして仕事をして居るとの事。
今回クルージングする艇は38フィートで寝室2部屋にリビングはベット使用出来ると云うし、キッチン部屋のリビングもベット化出来ると云う豪勢な大きさで在る。
それを60万で買い、エンジンを300万で購入、発電機も購入して、配管設備も仕事の合間を見て船体修理、ペンキ塗りも自前で遣って来て、今回初の試運転兼神津島クルージングの運びとの事で在る。
手放した筈のクルーザーが在るので、『懐かしい』と言ったら、これは別のポンコツ船にエンジンを載せ替えて、買い手を探して居るとの由。流石に商売人で在る。
横浜組4人が同行するので、4泊5日分の食糧を歩いて行けるAVEに行って調達して来る。客入りの多い大店舗で異国に居る様で、商品を探すのに迷子に為って仕舞う程で在る。テント、椅子、テーブル、各自の着替えバック等を積み込む。
<その2>
総勢7名の男達は、丘に上がった2艇に分かれての就寝と為った。翌朝8時に大型クレーン車が到着して、クルーザーの海降ろし作業が小雨の中、開始された。然しながら、これが港内の波かと思われる程のウネリで在る。
岸壁が高いので、上船は小型の浮き桟橋を降ろして乗り込むのだが、波のうねりに翻弄されて、船に手が届かない。タイミングを取り損なうと、海に落下で在る。船を見て居るだけで、『船酔い』の様で在る。嗚呼、歳は取りたくない物で在る。
A君がバーに飛び付き、必至でよじ登って行く。弟がタイミングはズレた物の、足をバタ付かせてよじ登った。Kちゃんが続いて成功で在る。とうとう、私の番が回って来て仕舞ったる
いや~、こりぁ、怖い。身が竦(すく)む。うねりに翻弄されるクルーザーと浮き桟橋の隔たりに、両のリズムの合致するタイミングを『冷や汗もの』で、推し量る。
今だ。手が届いた。よっしゃ!!
最年長73古希坂親父の必死の短足が掛かって、意外とスンナリ上船出来てホッとする。
ホッとするのも束の間で、これから伊豆大島通常で3時間半の試練の船出で在る。
私は、根が小心者で在る。船室に居ると淀んだ空気に酔うだけと云われるが、幾らライフジャケツトを着て居ても、ズッこけて海中落下しよう物なら、自分だけに終わらない。皆に迷惑を掛ける。それを考えれば、船酔いに遭っても、それは自分だけの事で在るから『踏ん張る』しか無い。
さぁさぁ、引き返す事の出来ない。試練、我慢の出港で在る。
クルーザー体験は何度かして居るので、目を閉じて居てもエンジン音、スピード、揺れの状態で、弟の操縦状況は頭に浮かぶ。中央のリビングルームで進行方向のソファに足を踏ん張り、両腕でソファを掴む。
波待ち、波を選んでの波頭切りの全速力、波待ち低速、方向換え、波頭突破、バシン、バシン、ドタン、ドタンの2、3m前後の『叩き』と云われる船体の落下、波待ち時の横揺れ、その苛酷さでの連続航法で在る。
時々、『お兄さん大丈夫ですか』『ああ、大丈夫。乗った以上は、我慢するしないわ。放って置いて好いからね。』
時計を見る。通常は3時間強の波浮港入りで在る。時間はオーバーして居る。弟も必死だろう。遺憾いかん、大分悪く為って来た。『吐く用意』をして置くか・・・。波待ちの横からのうねりに我慢が限界に為って来た。通常航行の一時間半のオーバータイムで、波浮に着いた様で間一発、『醜態回避』が出来た。
人間の体は正直な物で在る。不動の陸地に上がって、水を得た魚状態で、早速のテント設定が始まり、炊事担当のKちゃんと横浜組のUちゃんがテキパキと料理を運ぶ。Uちゃんは好い鰺が大量に釣れたので、魚派の私の為に油に咽(むせ)ながら、南蛮漬けを仕込んで置いて呉れたそうで在る。身厚で新鮮味で美味さ抜群物で在る。ビールで乾杯して、7人の男達は『にこやか談笑会』へと進む。皆、操船する男達で在るから、スマホで天気情報を取得して判断材料とする。
昔テレビで、『椎名真と愉快な仲間達』と云う番組が在った。言って見れば、その現実番が目の前で展開されて居る次第で在る。親の七光と云う言葉が在るが、私の場合は完全に『弟の七光』で好い思いをさせて貰って居る次第で在る。
<その3>
翌日は天候の回復を期待したが、悪く成る一方で在る。そんな中で、A君の母親が救急車の搬送との事で、『緊急事態発生』と相成った。
「A君、離れて電話したい気は分るが、皆の前で電話をするのが一番好い。そうすれば、色んなアドバイスと、状況を共有出来るぞ。頭のスウィッチを切り替えろ。」
「兄貴の言う通りだ。お前は自己処理能力が無いんだから、碌な事に為らんぞ。馬鹿垂れが。」
弟に如何思うと問われるから、ホームズ手法で推理して、対処策を応えると、『そうか、俺もそう思う。理性的判断も期待出来無いから、帰す。』と云う。幾ら持って居ると聞かれて、大丈夫ですと答えるが、馬鹿野郎、それで足りる訳ないだろう。これを持って行けの例のカミナリ社長の一幕が在ったが、連絡船で新宿から電車帰りと為った。
続いてクルーザーのエンジン系統のバッテリーが逝かれて仕舞ったとの由で、弟と解体修理屋の社長のHちゃんとの本格的原因究明と復活修理が始まる。
中央のリビングルームは床を剝されて、横文字の取扱説明書との首っ引きで、電気系統の模索が始まった。図面から設備を立ち上げる設備屋手法と解体修理手法の二人の遣り取りは、手順の方向性が違うだけで、双方が『補完関係』に立つアプローチ振りは、『餅は餅屋』で在る。何も出来ない私は暗部照明係として、大いに参考と為った次第で在る。
<その4>
翌朝は3度目の正直で、エンジンが掛かって、バッテリーの予備の購入と一部電気回線の改善点が出て来たと云う事で、落着して神津島遠征は悪天候の為、中止と為りレンタカーで島内観光と相成った。
漸くのA君からの報告が入って、案の定の推移で在った。
本町港沖の波頭の高さ、大時化(おおしけ)の海模様は完全にギブアップに誰も異存の無い処で在った。御神下温泉に浸かって、三原山山頂に行くが濃霧と寒さの短時間下山と相成り、昼はラーメン屋での昼食と相成った。『釣りをするしか無い』で、遣っては見た物の殆ど釣れずに、断続する雨にテントでの『雨宴会』として過ごす。
次から次と出るK、Oコンビに依る料理の腕たるや、佐渡行で目を見張った次第では在るが、和風、洋風共にプロ並みの味と、盛り付けで在る。
組織の一歯車のサラリーマンと違って、其々が自営業者の船仲間と云うのは、一緒の船に乗ったら『運命共同体』と云う根っこの部分が在るらしく、愉快な仲間達以上の共同体関係が小さな動作にも垣間見える。
自営業者と云う『自由人気質』が本々在るには違い無かろうが、『板子一枚下は地獄の、運命共同体同士の気持ち』が通い合う関係なのだろう。
普段の日常付き合いの世界だと、何かと出来ない理由ばかりが先行するのが娑婆模様では在るが、『おっ、分かった』の二つ返事の男世界は、一緒に居るとほっとする物で在る。
波浮港連絡船は欠航続きで在る。協議の結果、悪く成る一方の天候に直接横須賀帰りを断念して、『危険度の分割策』で三崎まで行って一泊の選択を決定する。
さぁ~、出港で在る。
出港間も無く、叩きと波待ちの横揺れの怒涛攻撃に、船内は扉と云う扉は、乱打に次ぐ乱打状態と成った。窓を見れば海中に居る様な物で在る。冷蔵庫の扉が開いて、中身が散乱して居る。
冷蔵庫の扉を閉めに行こうと立ち上ろうとすると、揺れに弾き飛ばされた。タイミングを計って立ち上がると、立ち処に弾き飛ばされた。
駄目だ。最悪の状況で在る。下手に動いたら、フロアに吐いて仕舞う。這いづって、ソファに座る。
バシンバシン、ドシンドシンの叩き付けと横揺れにギブアップで『覚悟』を決めるしか無った。
弟の操船する○○号は、翻弄の大海原にエンジンを全開に、そして耐えるスローダウンを繰り返し、壮絶な航行で踏ん張って居る様が、肉感出来る。闘争心と弱気、守り抜くの責任感が実感出来る。
横浜組のOさんに貰ったゴミの大袋を、粗相の無い様に頭から被って、『海は大時化、吾が身は、嘔吐の大海原に没して行くのみ』で在った。
吐きに吐いて、もう胃液しか出て来ない苦しみで在る。遭難の心配は起こらないが、この苦しみは何時間続く事やら、『引き算の出来ない苦しみ』が続く。
後で聞いた話では在るが、弟が兄貴は如何だの問いに、『ビニール袋を頭から被って、死んでます』の報告が在ったそうで在る。いやはや、情け無しやで在るが、これが私の等身大の現実で在る。
『虫の息地獄』の中で、300T船・『咸臨丸』が生きて太平洋を越えた苦難を考えれば、弱音は吐けない。船酔いで死ぬ訳も無いのだから、『忍の一字在るのみ。我慢我慢。』の念仏唱えでしか無かった。
小便も出来ぬから、ビニール袋に放出で在る。地獄の攻め苦の中で、それが唯一の気持ちの好さで在った。
其れが三崎港に入った途端に、揺れが無く為った。ああ、終わった。
「Rちゃ、大丈夫だったか。」弟はエネルギーを使い果たして、げっそりとこけて居る。
「俺は死んでたけど、操船は大変だっただろう。御苦労さん。お陰で生きてるわさ。」
「疲労困憊。塩水で目が痛くてさ。いや~、時間掛かった。丘に上っちゃえば、もうこっちのもんだ。マグロの三崎だ。美味いのを食べに行こうよ。腹には、何も無いだろうからな。」
三崎港の波の無さには驚くと同時に、何度か来て居るのに『城ケ島の雨』で有名な島が対岸に在ったのを、初めて知った次第で在った。雨は降る降るで始まる、城ケ島の雨は名歌・名曲の一つで在る。夜には、ヨットが一艇入港した。夫婦二人の躁船の様で在った。
<その5>
夜中、突然の寝言で目が覚める。
「この馬鹿野郎が、ふざけるな。土下座させるぞ!! それでもいいか。」
「横だと思ったら、Kちゃんが言ってたぞ。土下座させて許して遣るって云うから、紳士だわ。」
「えっ、寝言言いましたか。好く遣るらしいですよ。最後はライダーキック遣って、痛い痛いで飛び起きちゃうんですよ。」
「ああ、やっぱり。Kちゃん、何か言って居たんだ。」
「社長がA君を怒って居たのかなと思って居たんですけど。」
「俺は直接、Aをドヤシ上げて発散させてるから、夢にまで癇癪玉は起こさないで済んでるわ。夢でも『延長戦』遣らされたら、堪らんわ。」
「そりぁ、言えてる。」
翌朝のリビングモーニングコーヒーでの一光景で在る。
船内リビングでの朝飯は、一時間半程の航行との由で在ったが、私は『安全牌』を取っての朝食抜きとする。
トイレ、歯磨き洗顔をして鏡を見たら、何と毛髪の無い弟の顔が在って、好く似て居るものだと感心して仕舞った。今回の航行で一番穏やかな時間で在った。
さて、横須賀に向けての出航で在る。それでも、時間が掛かったとの事。相変わらず、港のうねりが大き過ぎる横須賀の波の荒さで在る。
大型クレーン車の到着で、今度は吊り上げ用の帯を水中に下して、其処に船を入れて行く作業を見学させて貰った次第では在るが、人間とは大した『芸当』をする物で在る。
楊陸されたクルーザーを全員で雨の中、丹念に真水洗いをして、荷物を運び出す。試運転航行をして不都合箇所の組み換え、修理を進めて行くそうで在る。
『好きこそ、物の上手為れ』では無いが、設備屋&解体修理屋連合体は、如何やら最強体の様で、中古クルーザーをネット販売して行くそうな。セブのゲストハウスが完成すると、場所を変えて、松本組と横浜組で屋上の集いを開くそうな。
帰りに横須賀中華店で、私を紹介する為に飯を食べて行くとの由。
「これが、俺の兄貴だ。」
「わぁ、噂の社長のお兄ちゃんか。好い男で素敵な声で声優したら、バチグー!!」
「同じ発音でも、俺のは『性優』の方だけどね。へへへ。」
「俺も、言うと思ったよ。」
「社長には聞いて居たけど、そっくりじぁ無いの。見た瞬間に、二人とも好い雰囲気を持って居る。絵に為る仲の好い兄弟だわ。お兄ちゃんと居ると、社長の顔がホントに柔和でリラックスしてる。羨ましいわ。」
「そうずら、俺は弟だからね。種と畑が好いと、こう為る見本だよ。アハハ。」
四国出身の旦那の味付けは味が濃くて、男の口に合うしボリュームで在った。何よりも、アットホーム的夫婦の『町中華店』で在る。
横浜組は弟から、何かと私の話を聞いて居て、好いコンビ過ぎるから、ちゃっかりとスマホで『動画撮り』をして置いたと云って見せて呉れた。いやはや、好く似て居る者同士では無いか・・・驚いて仕舞った。
他人様から見たら、私達兄弟は面白い関係に見えるらしい。弟は目下、総入れ歯に向けての硬い物食べれずの状況で在るから、私は横に座らせられて、噛めない物が私に回って来るし、残した物も私の処に、極普通の動作で回って来る。妖怪様の躾で食べ物を残すのは下品者のする事の訓えを継承して居る次第で在る。座る処も、寝る処も一緒で、話も兄弟話が多いから、傍からは面白い光景に映るらしい。
今回は地獄のクルージング行の結果に終わったが、再生クルーザーの試運転航海に私を誘って来る処が、如何にも弟らしいでは無いか。
試運転航海も無事終わって、熱い風呂に浸かって、洗濯物をして、大時化の試運転行の最良チェックが出来た次第でも在る。コロナ禍が一掃されて、セブのゲストハウスがオープン出来たと為れば、中禅寺湖のSさん、横浜組との海外バカンスにもひっぱり出されて、冥途の土産話にも為ろうか。
『老後の人の輪は、大事にすべし』で在る。
これにTが加わって居れば、おっ、分かったの二本線トリオで番から男同士の好い付き合いが続いて居だろうが、思い通りに行かないのが人生と云う物で在る。
日課のブログ打ちを5日もして居ないと、忘れ物をした感じで在る。この長雨ですっかり忘れて仕舞った夏の気温で在る。背後からは長雨に濁った増水の川音、廊下からは秋の気温に鳴くキリギリスの掠(かす)れ声の聞えで在る。丁度12時で在る。
それにしても、今日も雨で在る。四泊五日の留守で庭のマンジュシャゲは、委れて無残な花の終わりを告げて居る。ラジオによると、大雨注意報が出て居る松本で在る。妖怪様が兄弟仲好くで、お盆休み、久し振りの兄弟行のプレゼントをして呉れたのだろう。感謝感謝の段で在る。
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